蜘蛛と医学

セアカゴケグモ咬症と病害  ~「蜘蛛と医学」~

蜘蛛類の多くは衛生害虫、農林害虫を捕食する益虫として
高く評価されているが、医学上の問題もある

・一般には、、、、 「不快害虫」として扱われたり
・蜘蛛に咬まれる  「刺咬症」
・蜘蛛の糸にかぶれる「接触性皮膚炎」「結膜炎」
・精神科で問題となる「蜘蛛恐怖症」がある。

ほとんどの蜘蛛類は牙と毒線を持ち、場合によっては人を傷つけることがある。
これを「蜘蛛刺咬症」と呼んでいる。

これまでに人を咬んだという記録は180種ある。
そのうち重症になる有毒蜘蛛は、そんなに多いものではない。
しかし、これまでに死亡例を引き起こしたのは、「ゴケグモ類」「ジョウゴグモ類」「イトグモ類」「コマチグモ類」である。

————————————————————–
<蜘蛛の毒>
————————————————————–

蜘蛛は獲物を捕えたり、敵から身を守るために顎を用いて「咬む」。
たいての蜘蛛には毒腺があり、牙の先端にある開口部から毒液を注入する。

一般に毒腺は袋状で、螺旋状の筋肉や鞘に囲まれている。
毒液のほとんどが中性かアルカリ性、種類によっては酸性である。

「蜘蛛毒」は、有害な蜘蛛に咬まれた場合の症状や診断、治療といった医学的な問題の他に、その科学的な性質が注目されている。
例えば1990年以降、世界で320篇以上の論文が書かれている。
そのほとんどが神経医学、薬理学、生化学的な側面の研究である。

有毒種の毒を作用別で大別すると、「神経毒」と「組織毒(壊死毒)」に分けられ、前者はゴケグモ類の毒に、後者はイトグモ類の毒に代表される。
どちらも毒の主成分はタンパク質である。

多くの研究から、
タンパク質として、、、
 ・神経毒
 ・壊死毒
 ・ヒアルロニダーゼ
 ・エステラーゼ
 ・プロテアーゼ
 ・その他 非タンパク質として、、
 ・アミノ酸
 ・ヒスタミン
 ・ポリアミン
 ・セロトニン  

などの成分がある。

————————————————————–
<蜘蛛の発痛成分>
————————————————————–

逆相高速液体クロマトグラフィーによってアミン類の定量定性分析が簡単に行えるようになって、蜘蛛毒の発痛成分も分析されている。
主な発痛成分は、蜂毒と同じくアミノ酸から誘導された生理活性アミン類である。 

————————————————————–
<ゴゲグモの不思議な習性>
————————————————————–

雄は腹部をブルブル震わせ、やがて片方の触肢の先端を雌の生殖器に挿入し、体を逆立ちにし、そのままクルリと反対側に倒れる。
つまり、もんどり打って雌の丁度口器あたりに倒れかかる訳だ。
この時雌は口器から消化液を出してしるので、雄の腹部の一部を溶かし始めることになる。
雄はこの危機を逃れながら、残された片方の触肢を同じ雌の生殖器に挿入する。
そして、再び逆立ちをするが、このところで逃れることなく雌に食べられる。

————————————————————–
<ゴケグモ刺咬症>
————————————————————–

マサチューセッツ州ニーダムに住むナット・ウェアと言う男性が、朝早く起きて靴下をはいていると、何かに左足関節を咬まれた。
彼はその煩わしい虫を潰したが、よくみると小さな蜘蛛だったと言う。
「それから30分たって、脚に疼痛が走り、次第にその疼痛が鼠径部まで及んだ」
というものだった

その後も同じような咬症事件が、克明に記録されているが、この犯人は、明らかにゴケグモである。
その後、死亡例も出て、米国ではガラガラヘビと同じように有毒生物という警告を受けている。

米国カルフォルニア州スタンフォード大学から少し離れたロス・アルトスの村で開業したばかりのコールマン医師は、クロゴケグモによる2つの重症例を扱った。
1915年のことである。
この報告を知って、ケロッグ博士はクロゴケグモ毒の毒性テストをもっと知りたいと思い、自分自身を被験者にすることを思いついた。
そこで、クロゴケグモの毒腺を切り出し、毒を粉状にして、3日間飲んでみた。
この人体実験を2、3回繰り返した結果、少し気分が悪くなり、「粉状にした毒に、ある人は重大な問題を起こすだろう」と述べている。

1926年、当時ロスアンゼルス総合病院のレジデント医だったエミール・ボーゲンは「蜘蛛刺咬症」に関する論文を発表し、その年のカルフォルニア医学協会賞を授与された。
この論文によって、多くの博物学的な知識が、医学的な実態として認識されるきっかけになったと思われる。

ボーゲンの論文は、自分の病院での15人の蜘蛛咬症をまとめただけでなく、入手しえた文献をレビューし、150件に及ぶ咬症例を分析しているため大変参考になる。
この米国での症例は、クロゴケグモによる被害であり、その後も多数の報告がある。

日本でのセアカゴケグモによる1件の咬症例は、前途のように八重山群島の西表島で記録された。
「ゴケグモ咬症」と言う言葉が出来る程、ゴケグモ毒は人にとって毒性があり、熱帯、亜熱帯地域では猛毒性として悪名高い。
タランテラ伝説をもたらした真の有毒蜘蛛も、現在はゴケグモの仲間ジョウサンボシゴケグモと考えられている。
ただし、雄は小さく、咬まれないが、知らずに掴んだり、叩いたり、体を押しつけたりすると、自己防衛のために咬む。
咬まれた部位に2つの穴の牙跡が出来る。
重症の場合は、次のように中毒症状が進行する。

「咬傷の痛みはそれ程ではないが、10分程で全身症状が現れる。
各部のリンパ節が痛み、腹筋が強直する。絶えられない程の痛みがあり、多量の汗や涙、よだれが出て、血圧上昇、呼吸困難、言語障害などが起こり、2~3日後に死亡する。」

セアカゴケグモの毒量は少なく、人が死ぬ例は稀だが、皆無ではなかった。
本種による死亡例は、1956年以前にオーストラリアで12人が確認されている。

原 著:「環境管理」第15巻第3号6月号 (環境管理技術研究会)

お問い合わせ先:TEL 06-531-2845 FAX 06-535-4684